日本の雲行きが怪しくなってきたからか、日本ではなく海外で起業を目指す起業家が増えているように感じます。
チャレンジが賞賛を集めやすい中、果敢にも日本をベースにビジネスプランを立て、いきなり現地起業という選択肢を取る若い方もいます。
しかし、東南アジアにあるような新興国での起業を狙うならば、いきなり起業するのではなく一度「雇われて働く」というステップを踏んでから起業した方が賢明です。
私自身の知見を踏まえ、その理由を書きます。
ちなみに私自身は東南アジアで起業をし、一度大きく失敗しています。
まぁなので「新興国」を対象としたお話として受け取ってもらった方が良いですね。先進国では当てはまらないかもしれません。
- 海外起業の失敗がなぜ起きるのかがわかる
- 現地で起業前に知るべきポイントがわかる
- 現地で働くための選択肢がわかる
目次
海外起業の裏には数え切れない屍がある
冒頭でも書いた通り、日本が勢いを無くすほど海外へチャレンジする人が増えているように感じます。
海外へ興味を持つ若い方も増えており、私のところへも別で運営しているブログを通して「海外で起業を考えているので、一度情報交換させてほしい」という方が来ます。
その都度私は「一度現地で働いてから起業プランを再検討すべき」とお伝えしています。
*
海外起業がもてはやされる中、テレビやWEBニュースなどのメディアでは「若くして海外へ渡り成功した経営者」や「現在進行形で企業を育てている若い経営者」が登場することもあります。
彼ら、彼女らの口からは「早く海外に出て良かった」「やりたいなら今すぐやるべき」のように行動を推奨する言葉が聞こえてくるでしょう。
こういう話を聞いていると「自分も今すぐ行動を起こしたほうがいいのではないか?」、「これからは海外だ!よし海外で起業しよう!」なんて思いたくもなります。
ただ、忘れないでほしいのは「成功者の影には数えきれないほどの敗者がいる」ということ。
(そして私もその一人… ← 別にこれは忘れてもらって構いません)
いや…ほんと、大手も中小も、スタートアップも、表にはあまり出て来ないですが恐ろしいほど失敗しています。
また、海外…特に新興国には起業の種(社会の課題)がたくさん眠っていますが、外国人が事業を成功させる可能性は限りなく低いこと、も肝に銘じて欲しいです。
だからこそ、いきなり起業ではなく「下積みを含め現地で働く」→「起業」というステップを踏んでほしい。
挑戦には失敗がつきものですが、日本で考えたプランをぶら下げていきなり海外で起業するのはあまりにリスキーです。
いきなり海外起業すると陥る失敗パターンとその理由
「いきなり海外起業」の失敗パターンにはだいたい決まりがあります。
- ビジネスモデルそのものがずれている
- 事業計画があまりに絵に描いた餅
- 販路が思うように広がらない
- すべてのスケジュールが遅延
- 事業というより企業経営が手につかない
- 管理業務に追われ攻めに手がつけられない
など。
挙げればきりがないです。
ただ、これだけだと日本でも起こり得るし、あまりピンとこないかもしれませんね。
もっと事情をイメージをしやすいように、失敗例ではなく「失敗が起こる原因」を書いてみます。
【原因①】商習慣の違いにはまり込む
日本人が海外で事業を回す際の一番の障壁は「商習慣の違い」です。
他先進国とも異なりますし、さらに新興国ともなれば独自のオリジナルな商習慣で回っている国がほとんどでしょう。
ちなみにここで言う「商習慣の違い」は「ビジネス特有の業界慣習の違い(例えば、アパレル業界特有の習慣など)」というより、「ビジネスそれ自体の習慣の違い(会計、法務、人事、契約、など)」が大きいです。
基本的なビジネスの商習慣を理解していないと、個別の事業がどうのこうのの前に「そもそも会社を会社として回していくためのフォーカスポイントがわからない」という事態に陥ります。
これはクリティカルです。ビジネスアイデア自体が素晴らしくでも、会社が立ちいかなくなるので。
会社を回すためのフォーカスポイントというのは国によって変わりますが、新興国であれば次のようなことが挙がるでしょう。
- 税金対策(外資だけ不当に高い、役人の不正、二重徴収など)
- 売上の回収(B2Bでも値下げは当たり前、踏み倒しも少なくない)
- 当局との付き合い(帳簿上処理できないような袖の下が発生する)
- 従業員の維持(日本では考えられない短期間で人が入れ替わる)
- サプライヤーの質(品質、供給が安定しない)
日本だと「当たり前」すぎて経営課題にも入らないようなことが、海外だと日常茶飯事で怒ります。
難しいのは「頭で理解しても、実際に生じる問題を想像できない」こと。実際に海外に来て目で見て感じてみないとなかなかこの辺りは腹落ちしないのです。
【原因②】ターゲットがずれている
「日本人の感覚でターゲットを考えてしまうこと」も注意すべき点です。
以前日本に住んでいる方(仮にAさんとします)とお話した時に、彼は「バンコクもクアラルンプールもジャカルタもハノイも、そこまで違いがわからない」と話していました。
普通に「金持ち」と「一般人」と「貧困層」がいるのは感じるが、すべて同じような国に見えるそうです。
しかし、私含め挙げた都市で長く生活する日本人は、それぞれのアジアの都市が「何年単位で発展レベルが違うのか?」を腹で感じた上で述べることができます。
*
また、他によくある話としては「中心地」だけ見てしまいそれを「全体」に当てはめてしまうこと。
私が住むような東南アジアの新興国の首都は発展著しく、日本よりも大きくて華美なショッピングモールが乱立しています。
ただし、その中の世界は特別な魔法がかかったような世界。現地で生活する人たちはモールの世界に憧れつつも、堅実な生活をしています。
ここをはき違えると売値や利益率の設定を間違えてしまいます。
そして最後に、所得以外に「宗教」「民族」など日本ではあまり重視しないような項目も考慮する必要があることも、ここにつけ加えておきます。
【原因③】損益分岐点の感覚がずれている
現地で商売をする場合は、当たり前ですが現地のローカル企業がライバルとなります。
彼らは人件費の低い安い人材をフルに活用し、会社にかかる固定費も最低限まで圧縮して事業を回しています。
そのため損益分岐点が日本の同じ業態のそれよりも非常に低かったりします。利益が出やすいんですね。
特に労働集約型のビジネス(飲食店やコンサルティング業など)如実に現れます。
一方、日本で考えた事業計画は日本の常識で考えられているために損益分岐点の設定が高い。現地の感覚で「かなりの売上」を立てないと利益が出ない計画になっていたりします。
*
日本で入ってくる情報は、多くの場合は日系企業に限定された情報です。
ローカル企業がどのように経営しているかなんて生々しい話は出てこないでしょう。
また、現地でよろしくやっている現地化している日系企業も、ライバルが増えるのは嫌ですから本当に役立つ情報は表に出しません。
それらの「表面上の情報」を鵜呑みにして日本流で経営計画を立ててしまうと、現地企業とはかけ離れた事業計画が立ちあがり、損益分岐点も非現実的なラインに設定されてしまいます。
本当に役立つ情報は海外現地にしか落ちていません。
【原因④】頼れる現地ネットワークがない
どれだけ素晴らしいビジネスアイデアがあったとしても、ビジネスは一人・一社では拡大していくことはできません。
特に「新興国」で「外国人」「外資企業」という立場で事業を行うと、様々な障壁が立ちはだかります。
外資企業だというだけで、税金が増える…なんていう日本では考えられないことが起きることもあります。
また、新参者の外資企業だとパートナーシップも組んでくれないことも。
そういう時に頼りになるのは現地ネットワークです。
- 現地で長く事業を行っている日系企業や日本人との繋がり
- 本当に信頼できる現地人のビジネスパートナー
この両方が必要です。
しかし当然ながら人脈形成にはそれなりの時間がかかります。
また、海外で信頼できる人を見極めるには日本とは異なる「目」が必要です。これを養うにも時間がかかります。
現地で働く方法は何がある?
上記で挙げた問題点は、現地でのビジネス経験を数年詰めば理解することができます。
また、対策についても生きた知見を身に着けることができるでしょう。
では現地で働くにはどのような方法があるか?を最後に少しだけ書きます。
優先順位別に書いてみます。
ベンチャー企業の責任者クラスで赴任する
最も望ましいのは「現地立ち上げ責任者」として、会社の金を使って事業立ち上げを一通りやってみることでしょう。
立ち上げではなくとも、少なくとも責任者クラスで赴任することは血肉となります。
ベンチャー起業であれば立ち上げ責任者を外部調達していることもあります。
駐在員とはいえベンチャー起業の場合は待遇はそこまでよくはありません。
が、一方で裁量権を持って自由にやらせてもらえる、というメリットがあります。
海外起業を目指すのであれば、迷いなく機会に飛び込むべきだと思います。
現地採用として現地に飛び込む
立ち上げや責任者クラスが無理な場合は、現地採用として現地就労を検討してみてください。
駐在員ではないので待遇は低いですが、その分責任も少ないのでわりと自由に動くことができます。
週末にゴルフばかりしている駐在員を後目に、ローカル人脈を増やして独立する人もいます。
最後に
世界で活躍する日本人が増えるのはとても素晴らしいことだと思っています。
だからこそ、私自身が経験して感じたことは伝えたい、と思いこの記事を書きました。
言葉も文化も知らない外国人がぱっと出てきて成功できるほど、新興国は甘くはありません。
海外で成功している起業家は「現地で育った日本人」か「現地で働いた後に起業した日本人」のいずれかが多い。
「いきなり起業して成功した人」もいますが、成功を掴むまでに複数の事業を立ち上げては失敗していたりします。
こう考え直してみると、思いつく限り「日本からいきなり起業して成功した人」というのはほとんどいません…
他人の成功に過度な影響を受けることなく、自分は自分で成功確度を高める選択をしてもらいたい、と心底思います。